ある日、ある田舎町に住む高校生の少女、咲(さき)は、偶然ポストに届いた一枚のチラシに目を留めた。
「ミステリーバスツアー」と書かれたそのチラシは、なんとも不思議な雰囲気を漂わせていた。
行き先は明かされておらず、参加者は旅の途中で少しずつ謎を解きながら、最終的な目的地に到達するというものだった。
咲は、ちょうど夏休みで暇を持て余しており、好奇心に駆られてこのツアーに参加することを決めた。
予約を済ませた彼女は、数日後、指定されたバス停に向かった。
バスは古びた外見をしており、運転手は無口で物静かな中年男性だった。
乗客は咲を含めて10人。
彼らもまた、どこかミステリアスな雰囲気を持っていた。
ツアーのガイド役を務める女性は「皆様、ようこそ。これからの旅は、あなた方の直感とチームワークが試されます。楽しんでください」とだけ言って、深い意味を含んだ笑顔を見せた。
バスが走り出すと、周りは次第に田舎の風景から山間部の風景に変わっていった。
乗客たちは初対面でありながらも、自己紹介を始めた。
咲の隣に座っていたのは年配の男性で、彼は「趣味でいろんなバスツアーに参加している」と言った。
前の座席には、年配の夫婦や若いカップル、そして一人旅を楽しむような中年女性もいた。
どこか全員に共通点があるような、不思議な感覚が漂った。
しばらく走ると、最初の目的地であるという山奥の湖に到着した。
ガイドはここで最初の謎解きを指示した。「皆さん、この湖の周りにはいくつかの古い伝説があります。その伝説の鍵を探し出し、次の目的地を見つける手がかりにしてください」とのことだった。
咲たちはグループに分かれ、湖周辺を散策しながら手がかりを探し始めた。
湖畔には、古びた石碑や奇妙な模様が刻まれた木の幹があった。
咲はその中で、一冊の古い日記のようなものを見つけた。
その日記には「ここに来る者たちは、過去と未来が交差する場所を訪れるであろう」という謎めいた言葉が記されていた。
これが手がかりだと思い、咲は他の乗客たちと情報を共有した。
すると、他の乗客たちもそれぞれに古い文献や地図を見つけており、それらの情報をつなぎ合わせることで、次の目的地が山の向こうにある古い村であることがわかった。
再びバスに乗り込み、次の目的地へと向かう。
道中、咲はふと、これまでのバスツアーとは違う感覚を覚えた。
乗客たちが互いに何かを知っているような、不思議な親近感を感じるのだ。
特に、年配の男性が「このツアー、どこかで見たことがある気がする」とつぶやいたとき、咲は強い既視感に襲われた。
彼女自身、この景色やバスの中の空気が、どこか懐かしいように感じたのだ。
次の目的地である古い村に到着すると、そこは時間が止まったかのような静寂に包まれていた。
住民も少なく、まるで過去に取り残されたかのような村だった。
ガイドはここでも「この村には、ある秘密が隠されています。それを見つけることができれば、ツアーは次の段階に進みます」とだけ言った。
咲たちは、再び村の中を探索し始めた。
村の中心には、年代物の時計塔があり、その近くには小さな祠(ほこら)があった。
咲はその祠に引き寄せられるように足を運び、中を覗いてみると、小さな箱が祠の中に置かれていた。
箱を開けると、中には古びた写真と一枚のメモが入っていた。
写真には、現在のバスツアーの乗客たちと同じ顔ぶれが写っていた。
驚くべきことに、その写真は50年前の日付が書かれていた。
メモには「時は巡り、同じ魂はまた集う」という意味深な言葉が記されていた。
驚いた咲は急いで他の乗客たちにこのことを伝えた。
すると、年配の男性が「やはり、そうだったか」とうなずき、全員がどこか懐かしそうな表情を浮かべた。
彼らは実は、過去にこの場所で出会い、ある運命的な出来事を経験していたのだった。
そして、今世で再び集まり、その謎を解くためにこのツアーに導かれたのだ。
咲は、ツアーがただのミステリーツアーではなく、自分自身の過去や運命に向き合うための旅だったことに気づいた。
そして、彼女もまた、他の乗客たちと同じく、何か大切なことを思い出そうとしているのだと感じた。
その後、バスは最終目的地へと向かい、乗客たちはそれぞれの運命を受け入れながら、再び新たな旅路へと出発した。
このツアーが現実なのか、それとも夢なのか。
咲には、それを判断する術はなかった。
ただ、一つだけ確かなのは、この旅が彼女の人生において忘れられない特別なものとなったということだ。