シーリングワックスが好きな女性、香奈(かな)の物語は、古風でロマンチックな趣味が現代に生きる彼女をどのように形作っていくかを語るものです。
香奈は、子供の頃から手紙を書くことが好きだった。
高校生になってスマートフォンやSNSが当たり前の時代になっても、彼女は手書きの手紙にこだわり続けた。
その理由は、手紙には人の温もりや感情がそのまま伝わると感じていたからだ。
大学生になったある日、彼女はインターネットで「シーリングワックス」というものを偶然見つけた。
それは、中世ヨーロッパで手紙の封をするために使われていたもので、色とりどりのワックスを溶かし、手紙に押しつけて固める封印具だった。
「これだ!」と彼女は思った。シーリングワックスは、ただ手紙を書くこと以上に、その手紙を特別なものに変える魔法のように感じられた。
そこで、彼女はさっそくシーリングワックスの道具一式を購入し、自分の手紙に封印をすることに挑戦した。
初めてシーリングワックスを溶かして封印を作った瞬間、香奈は心が躍った。
ワックスが溶け、鮮やかな色に変わる様子。
そしてそれを手紙に垂らし、刻印を押し付けて美しい模様が現れる瞬間。
それはまるで、自分の感情や想いがそのまま形になって表れたような感覚だった。
彼女は、その感覚に夢中になり、次々に手紙を書いてはシーリングワックスを使って封をしていった。
最初は友達に手紙を送るだけだったが、次第に彼女はシーリングワックスのデザインに興味を持つようになった。
さまざまな色やスタンプのデザインを集め、オリジナルの組み合わせを考えることが彼女の日常になった。
ワックスの色と封印のデザインを選ぶとき、彼女はその相手のことを深く考え、どんな色やデザインが最適かを心を込めて選んでいく。
それはまるで、相手に対する贈り物を選ぶような感覚だった。
ある日、香奈はふと思った。
「このシーリングワックスをもっと広めたい。現代の忙しい生活の中で、手紙を書いて封印をするというアナログな行為が、人々にどれほどの喜びをもたらすかを伝えたい。」
彼女は、シーリングワックスに特化したワークショップを開くことを決意した。
ワークショップの開催に向けて、香奈は準備を進めた。
まずはシーリングワックスの歴史や作り方を学び直し、自分がどれだけその魅力に惹かれているかを改めて感じた。
そして、自分が集めたさまざまな色やデザインのシーリングワックスを参加者に提供することで、彼らにもその楽しさを体験してもらいたいと考えた。
ワークショップ当日、彼女の期待以上の人々が集まった。
シーリングワックスに興味を持つ人もいれば、ただ手紙を書く楽しさを再発見したいという人もいた。
香奈は丁寧にワックスの使い方を教え、スタンプの選び方や色の組み合わせの楽しさを共有した。
参加者たちは、それぞれの手紙に個性を表現し、封をすることでその手紙がより一層特別なものになることを体験した。
その日のワークショップが終わった後、香奈は参加者たちが作った封印を見て感動した。
どれもが独自の美しさを持っており、参加者たちの創造性や想いが込められていることが伝わってきた。
「シーリングワックスはただの装飾ではなく、その人自身を表現する一部なんだ」と香奈は改めて実感した。
ワークショップが成功したことを機に、香奈はさらにシーリングワックスの魅力を広めるために、オンラインでもシーリングワックスの販売や使い方を紹介する活動を始めた。
動画を通じて、シーリングワックスの溶かし方やスタンプの使い方、そして手紙の美しさをシェアすることで、国内外のファンが増えていった。
ある日、香奈は一通の手紙を受け取った。
それは、彼女のワークショップに参加した一人の女性からだった。
手紙には、「あなたのおかげで、手紙を書く楽しさを再発見しました。シーリングワックスで封をするたびに、自分の気持ちがより丁寧に伝わる気がします。本当にありがとうございます」と書かれていた。
その手紙には、美しいシーリングワックスの封印が施されていた。
香奈はその手紙を手に取り、胸が熱くなった。
「手紙を書くこと、そしてシーリングワックスを使うことは、ただの趣味やアートではなく、人と人をつなぐ大切な行為なんだ」と彼女は改めて思った。
そして、これからもシーリングワックスの魅力を伝え続け、手紙を書く楽しさを広めていこうと心に決めた。
香奈のシーリングワックスへの情熱は、これからも続いていく。
彼女にとって、それはただの封印ではなく、感謝や想いを込めるための「心の封印」なのだから。