大学生の田中一郎は、夏休みを利用して友人の山田と佐藤と共にキャンプに出かけることにした。
都会の喧騒から離れ、自然の中でリフレッシュすることを楽しみにしていた彼らは、ネットで見つけた「幻の村」という場所に興味を持ち、そこに行くことを決めた。
噂によると、その村は何十年も前に突然消えたという不気味な話があるが、三人はそんな話を信じることなく、ただの都市伝説だと思っていた。
キャンプの準備を整えた三人は、車で山奥に向かった。
道は次第に険しくなり、やがて舗装されていない細い山道に変わった。
昼過ぎに出発したのに、日が暮れるまでには村に到着できるはずだったが、途中で道に迷ってしまった。
日が落ちて暗くなるにつれ、彼らは不安を感じ始めた。
「ちょっと、この地図本当に合ってるのか?」山田が不安げに言った。
「わからない。でも、もう少し行ってみよう。引き返すよりは近いはずだ」と田中が答えた。
佐藤は黙って景色を眺めていたが、突然「あれを見て!」と叫んだ。
彼らが進んでいる先に、薄暗い森の中に古びた木製の看板が見えた。
「村への道」と書かれている。
三人は看板に従い、さらに奥へと進んだ。
やがて、木々の間から朽ち果てた家々が見え始めた。
そこは確かに「村」だったが、まるで時間が止まったかのように、どの家も廃墟となっていた。
彼らは車を降り、懐中電灯を手にして探索を始めた。
「ここは一体どうなっているんだ?」佐藤が声をひそめて言った。
「本当に誰もいないのか?」山田も同じく低い声で答えた。
田中は周囲を見渡しながら、「とりあえず、今夜はここでキャンプを張ろう。明るくなったらもう少し調べてみよう」と提案した。
三人は村の中心にある広場にテントを張り、焚き火を囲んで食事を始めた。
夜が深まるにつれ、森の中から不気味な音が聞こえ始めた。
風の音かと思ったが、次第に人の声のように聞こえてきた。
「何か聞こえないか?」山田が言った。
「風の音だろう」と田中は言いながらも、内心では同じように不安を感じていた。
佐藤が焚き火の火を強めようとしたその時、突然テントの外から「助けて」というかすかな声が聞こえた。
三人は一斉に立ち上がり、懐中電灯を持って声の方に向かった。
声の方向に進むと、古びた祠が見えてきた。
祠の前には、一人の少女が立っていた。
彼女は薄汚れた白いワンピースを着ており、顔には恐怖が浮かんでいた。
「助けて…」と彼女は再び言った。
田中が近づこうとしたその瞬間、少女は突然消え、代わりに祠の中から一陣の冷たい風が吹き出した。
三人は驚き、後ずさりした。
「これは一体…?」佐藤が震え声で言った。
その時、山田が突然「助けて…」と呟きながら倒れた。
彼の体は痙攣し始め、目を開いたまま動かなくなった。
田中と佐藤は恐怖に駆られ、山田を連れて車に戻ろうとした。
しかし、村の出口はいつの間にか霧に包まれ、道が完全に見えなくなっていた。
彼らは車にたどり着くことができず、再び村の中心に戻ってきた。
「どうすればいいんだ…」佐藤が絶望的に呟いた。
その時、村の家々の中から無数の影が現れ始めた。
彼らは人間の形をしていたが、その目は真っ黒で、無表情だった。
影たちは三人に向かってゆっくりと近づいてきた。
「逃げろ!」田中が叫び、山田を抱えたまま走り出した。
しかし、どの方向に進んでも、影たちは次第に距離を縮めてきた。
最後には、三人は影たちに取り囲まれ、逃げ場を失った。
影たちは静かに彼らに手を伸ばし、冷たい手が三人の体に触れた瞬間、視界が真っ暗になった。
翌朝、警察が通報を受けて捜索に出たが、三人の姿はどこにも見当たらなかった。
彼らが訪れたという村も、地図には存在しない場所だった。
田中、山田、佐藤の三人は永遠に「幻の村」に囚われたまま、二度と現実の世界に戻ることはなかった。
その村は今もなお、探検者たちを引き寄せ、消し去り続けている。
彼らが戻ることは決してなく、ただの都市伝説として語り継がれていくのだった。