深夜2時、月明かりが薄く照らす静かな住宅街で、玲子は一人でソファに座っていた。
彼女は最近仕事が忙しく、帰宅するのが遅くなることが多かった。
今日もまた残業で疲れ果て、家に着くとそのままソファに沈み込むように座ったのだった。
窓の外にはわずかに霧が立ち込め、街灯の光がぼんやりとした輪を描いている。
突然、電話のベルが鳴った。
玲子はびっくりして立ち上がり、時計を見た。
深夜2時の電話など、何か悪いニュースがあるのではないかと心配になった。
仕方なく電話を取ると、受話器からは無言の静寂が流れてきた。
玲子は何度も「もしもし?」と呼びかけたが、応答はなかった。
気味が悪くなった玲子は電話を切り、再びソファに戻った。
しかし、心のどこかでこの電話のことが気になり、落ち着くことができなかった。
数分後、また電話が鳴った。
玲子は少し震えながら再び受話器を取った。
「もしもし?」
今度は、かすかな息遣いだけが聞こえてきた。
人の声ではない、ただ息だけの音が耳に残る。
玲子は恐怖で手が震え、受話器を持つ手が冷たくなっていた。
「誰ですか?」と必死に問いかけるが、相手は黙っているだけだった。
ついには受話器を置き、もう一度ソファに座った。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
玲子はびくっとして立ち上がり、ドアの方へ向かった。
誰もいないだろうと分かってはいたが、どうしても確認せずにはいられなかった。
ドアを開けると、そこには誰もいなかった。
外はただの霧と静けさが広がっているだけだった。
再び家の中に戻ると、リビングのテーブルの上に小さな紙切れが置かれていた。
玲子は恐る恐るそれを手に取り、中の文字を見た。
そこにはただ一言だけ書かれていた。
「ごめんなさい」
玲子の心臓は激しく打ち始めた。
誰がこのメモを置いたのか、そして何が「ごめんなさい」なのか全く分からなかった。
恐怖で身震いしながらも、玲子はその場を離れることができず、ソファに座り込んでしまった。
数分後、再び電話が鳴り始めた。
玲子はもう耐えられず、受話器を取らずにいることに決めた。
電話が鳴り続ける中、彼女は窓の外の霧を見つめ、そこで動く影を見た。
影はゆっくりとこちらに近づいてくるように見えた。
電話が鳴りやんだ後、玲子は深い呼吸をしながら受話器を手に取った。
すると、静寂の中に低い声が聞こえた。
「私はあなたの隣にいる」とだけ囁かれた。
その瞬間、玲子は振り向くことができず、そのまま恐怖の中で震え続けた。
翌朝、彼女の家は誰もいないまま発見されたが、電話の受話器は地面に落ちており、そこには「ごめんなさい」という紙切れと、もう一枚のメモが添えられていた。
そのメモにはただ一つの言葉が書かれていた。
「遅すぎた」