タロウの祠

ホラー

ある日、都内の一軒家に住む中村という男性が、奇妙な体験をすることになった。
中村は30代後半の独身で、仕事の関係で多忙な日々を送っていた。
趣味といえば週末に愛犬のタロウと一緒に近くの公園を散歩することぐらいだった。
しかし、そのタロウが突然の病で亡くなり、中村は深い悲しみに包まれていた。

タロウが亡くなってから一週間後のことだった。
中村が仕事から帰宅し、ドアを開けると、タロウのものと思しき足音が聞こえてきた。
驚いて家の中を見渡すが、もちろんタロウの姿はない。
しかし、その夜から毎晩、タロウの足音や彼が使っていたお気に入りのクッションが勝手に動く音が聞こえるようになった。

初めは怖がっていた中村だったが、次第にこれはタロウの霊がまだ自分の傍にいるのだと感じるようになった。
そして、その感じを抱くたびに心が温かくなった。
中村はタロウの地縛霊とでも言うべき存在と共に過ごす日々が続くようになった。

ある晩、中村は夢を見た。
夢の中でタロウが彼に向かって尻尾を振りながら走り寄ってきた。
タロウはその夢の中で、人間の言葉で中村に話しかけてきた。
「僕はまだここにいるよ。でも、お父さんが幸せになるために、僕は自由になりたいんだ。」

目が覚めると、中村は涙が頬を伝っていた。
彼はタロウの気持ちを理解し、タロウを解放してあげるために何をすべきか考え始めた。
そこで、タロウのために庭に小さな祠を作ることに決めた。
祠にはタロウが好きだったおもちゃやクッションを置き、タロウの写真も飾った。

そして、祠の前で中村はタロウに語りかけた。
「タロウ、本当にありがとう。君のおかげで僕はたくさんの幸せを感じることができた。でも、君が自由になるためには、僕も前に進まなきゃいけないんだね。」
そう言って、中村は涙を流しながら祠に手を合わせた。

その晩、奇妙なことが起きた。
中村が寝室で寝ていると、タロウの姿がはっきりと現れた。
タロウは中村のベッドの横に座り、静かに中村を見つめていた。
中村は驚きながらも優しくタロウに手を伸ばした。
タロウの体は冷たく、霊であることを改めて感じさせたが、その瞬間、中村の心には温かい何かが広がった。

「ありがとう、タロウ」と中村がつぶやくと、タロウは一度だけ尻尾を振り、ふっと消えた。
それ以来、タロウの霊が現れることはなくなった。
中村はタロウがついに成仏し、安らかに眠ることができたのだと感じた。

タロウの地縛霊との日々は、中村にとってかけがえのない時間だった。
その経験を通じて、中村は愛する存在の大切さや、自分自身の心の強さを再認識することができた。
そして、タロウとの思い出を胸に、新たな一歩を踏み出す決意を固めたのだった。

その後、中村は新しい仕事に挑戦し、さらに多くの人と出会うことで、新たな幸せを見つけることができた。
タロウとの思い出は永遠に彼の心に刻まれ、中村はいつもタロウが見守ってくれていると感じながら、日々を大切に生きていった。